鍵修理業者と警察官と執行官

さまざまなお客さんが来る商売

鍵修理業者にはいろんな人々が訪れるものです。
数年前まで鍵修理業者として働いていましたが、今の仕事と比べるとそう思うことがよくあります。
一般人の人も多いですが、警察官や司法関係者の人々も度々鍵修理業者の元に訪れてくるのです。
鍵修理業者には名前のとおり鍵を修理する仕事もありますが、鍵・錠の販売や取り替えもします。
その仕事のなかでも特殊なのが鍵開けでしょう。
名前のとおり鍵開けとは、鍵を開けるための作業です。
一般的には一般人が鍵を紛失したため、ドアが開かなくなったとき依頼されることがほとんどです。
でも、なかには普段出会わないような人からの依頼があるのです。

たとえば、警察官から犯罪者の自宅を家宅捜索するために依頼されることもあります。
犯罪者といえども市民に対して警察官が鍵を壊して侵入することはほとんどできずに、私たち鍵修理業者が鍵を壊さずにドアを開けていくのです。
警察官に囲まれながらの鍵開け作業となるのです。
鍵を壊さないように気をつけなくてはいけないので、とてもプレッシャーのかかる仕事でした。
他にも、不景気によって依頼者も変わってきたように感じました。
不景気によって自己破産や倒産する人・企業が多くなり、競売物件が大量に出るようになったのです。

その競売物件のなかには強制執行によるものもあるようです。
強制的に競売をかけると言うことで、鍵を渡さない人も決して少なくありません。
そこで鍵修理業者である私の出番が回ってくるのです。
不動産業者から強制執行された住宅の鍵明けの依頼があるのです。

もちろん、競売にかけるため少しでも価値を落とさないようになるべく傷つけないように心がけることも大切なので、プレッシャーがかかります。
最近では防犯対策が進んできたため、鍵のシリンダーも普及しているためピッキングにすごく時間がかかるものです。
なかにはピッキングすることが不可能な鍵もあるので、そのときは断らなくてはなりません。
どんな鍵も開けてしまう鍵修理業者というのは、残念ながら日本に数えるくらいしか存在してないのです。

開けられない鍵もある

そんななか、強制執行の執行官が私のところへ尋ねてきたのです。
自分の身分を名乗ってから唐突に
「U9をそちらの鍵修理業者でも開けられますか」
と尋ねてきました。

強制執行をいくつも経験してきたのでしょう。
シリンダーの種類をよく知っているようでした。
でも、U9というシリンダー錠を開錠できる鍵修理業者は数えるくらいしかいません。
そのため、どちらとも無理だと執行官に答えたのです。
そうしたらどこか鼻で笑ったような仕草をして、さっさと立ち退いてしまいました。
鍵修理業者というのは鍵のプロフェッショナルですが、すべての鍵を開錠できるわけではありません。

どんな鍵でも開けることができたら、鍵を取り付ける必要性なんてありません。
ぜひ、多くの人々には鍵修理業者のことをもっと知ってもらっても理解してほしいと、今更ながら思っています。