現金輸送車のハプニング

現金輸送機のインロック

私が鍵修理業者として働いていたとき、先輩から聞いた話があります。
それは、平日の午前中に提携していた誰もが知るくらいの大手のロードサービス会社から出動してほしいとの依頼が突如入ってきました。
そのロードサービス会社では現金輸送車を扱っているのです。
「現金輸送車が銀行の店舗前でインロックしてしまったので大至急きてほしい」といった要請だったのです。

でも、その銀行に行くには早くても40分はかかります。
そのことを伝えても、「とにかく早く来てほしい」との催促だったのです。
そのため、慌てて車に乗って目的地の銀行へ急いでいきました。
といっても、スピードを出しすぎて警察に捕まっては意味がありません。
出来る限りのスピードで少しでも早く着くように心がけました。

なぜ、早く行かなくてはならないかといえば、ロードサービス会社がインロックして銀行の前で立ち往生しているというのは、ロードサービス会社の沽券に関わるからです。
顧客である銀行にも、周囲の人々にもイメージを悪くするでしょう。
ある意味でロードサービス会社というのは安心を提供するというイメージが重要なのです。
だからこそ、イメージが少しでも悪くならないように早くアクシデントを解消させる必要があるのです。

現場は大パニック

でも、電話であったように40分はかかってしまいます。
電話があって20分後くらいになってロードサービス会社から携帯電話に電話がかかってきました。
「顧客が正気を失って、カンカンに怒っている」と言われましたが、どうしようもありません。
「現金輸送車のガラスでも割って侵入してしまえ」という無謀とも取れる要求までしてきたのです。

そのため、一度現地にいる当事者の警備員に電話することにしたそうです。
警備員に電話すると、とにかくパニックになっていました。
きっと、その警備員は銀行からのプレッシャーだけでなく、会社からのペナルティや激怒を恐れているのでしょう。
何といっても銀行前での現金輸送車がインロックという自滅的な失態なのです。
そういうことを思いながら、あれよあれよと言う間に何とか現地に着くことができたそうです。
目的地に着くと早速警備服を着ているお兄さんが「ここだよ!ここ」と大きく手を振りながら大声で叫んでいる人がいました。
この必死な人がロードサービス会社の人だとすぐにわかりました。

早速、開錠作業を進めました。
現金輸送車といっても商用ベースの車だったので、ドアを開けるのは簡単にできました。
しかし、ドアを開ける前にまたロックボタンが下がってしまい施錠してしまったのです。
警備員が言うには、現金輸送車というのは自動的に施錠がかかるように作られているようです。
そのため、警備員も日常的に使っていた車の同じように使ったためインロックさせてしまったのです。
改めて、開錠させて無事に仕事が終わったそうです。
鍵修理業者の仕事というのは、稀にこう言ったハプニングのなかに入っていくことがあるものです。