ある昼下がりの出来事

ある日の仕事

29歳までずっと鍵修理業者で働いていました。
普段の仕事は地味なことが多かったのです。
でも、そこでは時々、普通の仕事では考えられないようなトラブルやアクシデントに遭遇することがありました。
ある意味、ショッキングな仕事だったと思います。

たとえば、4年前鍵修理業者だったころの昼下がりのことです。
事務所でいたとき、突如警察署から電話がかかってきたのです。
その電話の内容は「高齢者の住んでいる家があるのだが、3日間応答がないから、もしかしたら—」としばらく間があって、「玄関のドアを開けてほしい」との依頼でした。
その電話の内容で何となくどのような結末になるのか想像できました。
もちろん、仕事なのでその依頼を受けてから、警察署から指定されたその住所と待ち合わせ時間に職場の同僚を一人連れて一緒に向かうことにしたのです。
指定された1戸建て住宅に着くとそこには警察官が4人ほどいました。
さらにその警察官を取り囲むように周辺住民らしいギャラリーが10人ほどいたように思います。

早速、開錠することになったのですが、警察官も含めて15人のギャラリーがいるなかで開錠することになったのです。
普段ではせいぜい2〜3人に見られながら仕事をするのですが、今回はギャラリーも覆いため緊張しながら仕事を始めた思い出があります。

開けた先には…

いくら警察官だといっても、そう簡単に市民の住宅の鍵を開けることはできないようです。
施錠されている玄関ドアを開錠させるのにはほんの数分もかかりません。
開錠されたとたん、警察官がすぐに住宅に進入していったのです。
もちろん、私たち鍵修理業者は鍵を開けるのが仕事です。
そのためいくら扉を開けたからといっても、扉の向こう側に原則干渉するわけにはいかず、ドアの外で待っていました。

しばらくして、住宅のなかに入っていった警察官が大声で叫んだのです。
「本部に連絡だ、早く」
数十分後、何台ものパトカーが着て、どんな現状か知らされることなく私たち鍵修理業者は帰宅させられました。
もちろん、仕事をした分の料金は後日いただきました。

後から近所の人に聞いたのですが、その住宅に住んでいた高齢男性がお風呂のなかで倒れたまま亡くなっていたのです。
どうやら、高齢者によくあるお風呂場での心筋梗塞による死亡らしいです。
その住宅では元々息子夫婦が一緒に暮らしていたのですが、高齢男性一人を留守番にして一週間ほど夫婦とその子供が海外旅行に出掛けたのです。
その旅行にいって数日後に運悪くお風呂場で心筋梗塞になってしまって、亡くなってしまったのです。
息子夫婦は毎日電話したのですが、途中から電話が繋がらなくなり、知り合いを通じて警察に連絡して、私たち鍵修理業者が開錠の仕事を承ったのです。

このようなアクシデントに出遭うことは、鍵修理業者ならではだと思います。
今はもう転職して鍵修理業者ではありませんが、鍵修理業者として働いていた思い出というのは、とてもショッキングなものばかりでした。