お客さんも千差万別
鍵屋の仕事は、本当に色んなシチュエーションに出くわすので面白いです。
利用の理由としては家の鍵をなくしたか、鍵が老朽化などで壊れたり、接触の具合で開かなくなった、閉まらなくなったという呼び出しが多いかもしれません。
依頼の理由は同じでも鍵は千差万別ですし、助けを待っている人の性格や事情も色々で、大変なこともあれば、嬉しいこともありました。
24時間営業しており、週に何度かは夜勤勤務がありました。
そんな時に依頼があった、あるお客さんとのエピソードを紹介したいと思います。
身分証までなくした依頼主
家の鍵がなくなったとのことで依頼が入りました。
家の鍵の紛失は、外出先や仕事から戻られる夕方から深夜にかけてが多く、場合によっては明け方というのもあります。
みなさん、家に帰り鍵を開けようとして無いことに気づかれるケースが多いためです。
その依頼者というのが飲み会の帰りだったらしく、かなり酔っていらっしゃいました。
家の鍵を開けるには、ご本人確認をしなければなりません。
万が一、他人に成り済まして解錠することを防ぐためです。
それが鍵が見つからないどころか、身分証明書も見つからないらしく、ずっとカバンの中やスーツのポケットを探しまわっています。
私が探すのを直接手伝うわけにはいかないので、もしかしたら鍵もどこかに入っているかもしれないと思いながら、「カバンの内ポケットはどうですか?」「手帳の間は?」などとお声かけしつつ探したのですが、鍵も身分証明書も見つかりませんでした。
これはどうしようもありません。
依頼人はたいてい初対面の方が多く、家の表札と身分証明書の名前が一致しないことには、どんなに困られていても懇願されても、開けられないのです。
部屋を借りている不動産会社に連絡してみるようお伝えしましたが、深夜で応答がないとのことでした。
酔っぱらっているので「どうにかしろ」とわめかれ、ご近所迷惑になるのではとヒヤヒヤでした。
一晩そのままにするわけにはいきません。
近くのビジネスホテルに宿泊することをご提案したりもしたのですが、金がないとか、ここは自分の家だぞと怒鳴り散らされます。
お気持ちは分かるのですが、この人がここの住人である確証がとれない以上、鍵屋の正義として開けることはできないんです。
翌朝
そこで考えたのが、私が詰めている事務所にお連れすることでした。
仮眠室がありましたので、上長の了解を得てお休みいただきました。
翌朝目覚められると、酔いが覚めたのでしょう。
昨夜とは別人のように丁重になって、「ご迷惑をおかけしました。でもほとんど記憶がなくて」とおっしゃいます。
しかも、あれほど探してなかった身分証明書が見つかり、早速営業車に乗ってもらい、鍵の解錠と交換を承りました。
一晩お時間を待たせてしまったのですが、料金はしっかり払っていただいたうえ、コンビニで缶コーヒーとパンを買ってくださり、朝食にと手渡してくださったのです。
誠実な対応に感心しましたと言われたときには、嬉しかったですね。