警察からの依頼
以前は鍵修理業者として働いていました。
ドラマでも時々見ることがあるため、知っている人も多いでしょうが警察の依頼を受けることも少なくないのです。
その警察の依頼というのは、日常とは切り離された出来事が起こるものです。
たとえば、真夏の昼ごろに電話がかかってきました。
着信番号の最後のケタが『0110』だったのです。
この番号は警察からの電話番号であることがわかります。
警察からの電話というと酔っ払いのための開錠、指名手配犯や連絡の取れない人の家の鍵を開けるなど、普段ではありえない出来事に遭遇することが多いのです。
もちろん、仕事なので電話をとりました。
どんなことが起こるかわかりませんが、トラブルは警察が対応してくれますし支払いの心配もありません。
それに法的なものは警察が立会いなので安心であるため、上得意様といってもいいでしょう。
その警察の依頼の内容というのは、古い団地に住む独居老人の連絡が取れないままでいるから、玄関の鍵を開けてくれないかというものでした。
何とも嫌な予感のする仕事で、あまりモチベーションがあがるものではありません。
とりあえず、仕事なので依頼を受けて現場に向かうことにしました。
普段は直接現場に向かうことが多いのですが、今回は警察官も立ち合いということで交番が待ち合わせ場所です。
いつもより多い警官と
交番には警察官5人と刑事らしい人が2人いました。
時々、警察と一緒に仕事をすることもあって、警察官のなかに顔見知りの人もいるので、さほど緊張することはありませんでした。
でも、警察官・刑事7人というのは多すぎるような気がして不安があったのです。
刑事たちと私8人で現場に行くことにしました。
何も知らない人が見たら、私が逮捕されて連行されているように見えたでしょう。
とある団地の部屋の前に来たとき、今まで嗅いだことのない何とも嫌な臭いがしていました。
「さっそく開けてくれないか」という知り合いの警察官に言われたため、さっそく開錠しました。
古い団地で鍵の仕組みは単純なので、ほんの数分の作業で終わりです。
「君は下がっていたほうがいい」と言われドアから遠くに離されました。
それでも、ドアを開けただけなのに強烈な刺激臭が外にまで漂ってきました。
私はもちろん警察官・刑事もみんな鼻と口を覆っていたのです。
孤独死の現場
そして、警察官たちは黙々と部屋に入っていって行きました。
最後に入ろうとした警察官が、「支払いは後日するので今日はもう帰っていいぞ」と言われたので帰っていったのです。
後日、警察官が開錠の支払いをしに着ました。
当時の話を聞いてみると、独居老人が亡くなって3日ほど経っていたそうです。
独居老人の孤独死というのは新聞やニュースで知っていましたが、まさかそれを目の当たりにするとは思いもよりませんでした。
鍵修理業者として働いていたときは、このような出来事に出遭うことが幾度もありました。
プライベートのドアを開ける鍵修理業者では、ある意味で宿命といってもいいかもしれません。